2024.12.23
毎日新聞社が主催する毎日農業記録賞。栃木県農業振興事務所から紹介いただき、株式会社野のファーム(ベジモ栃木)から応募。
「農」や「食」「農に関わる環境」などへの思いをしっかりとお伝えさせていただき、見事「入選」作品となりました!
長文になりますが、こちらに全文を掲載させていただきます。
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タイトル「農と食がもつ大きな価値を、新しい農ビジネスで未来につなぐ」
株式会社野のファーム 小林 寛利
私は2013年から栃木県佐野市で農薬や化学肥料を使用せず野菜を生産し、VEGIMO(ベジモ)というネット通販で販売をしています。株式会社野のファームの小林寛利(ひろとし)です。わたしが農業を始めたきっかけは、サラリーマンだった父が定年退職後にはじめた家庭菜園。当時私は大学を卒業してから東京の企業に就職し、3年ほどが経った25歳の時でした。実家に帰省した際に、父が農薬や化学肥料を使用せずに育てた新鮮な野菜(きゅうり)を食べて、「野菜ってこんなにおいしかったんだ!」と感動し、その後東京のスーパーで同じきゅうりを買って食べた時、その違いに驚きました。東京で買ったきゅうりは見た目は同じでも味がほとんどしなかったのです。それから実家に帰るたびに父の畑を手伝うようになりました。農業は開放的な環境で太陽の光を浴び、土に触れ、種から少しずつ大きく育っていく野菜を見守る。手伝ってみると、その楽しさや気持ちよさを感じるようになりました。だんだんと有機農業のような自然な農業の魅力を感じるようになり、知れば知るほどこの「作る人」「食べる人」そして「地球」と、すべての存在にとってやさしい農業はとても価値の高い仕事だと感じるようになりました。
「価値あるものには必ず対価が得られるもの」「対価が得られていないとしたら、その価値を正しく伝えられていないか、伝えるタイミングが悪いか、伝える先が間違っている。原因を追求して正しく伝えれば、価値があれば必ず対価が得られるようになる。」これは私が当時働いていた企業の上司から言われていた言葉でした。私が自然や環境に配慮した農業に感じた価値は、今まで働いてきてもっとも大きな価値だと感じました。でも、調べてみると農業は儲からない、大変で後継者も減っている、そんな中でも有機農業はさらに大変で農家も少ない、という情報ばかり。私はこの「作る人」「食べる人」そして「地球」にもやさしい農業の価値をもっと正しく世の中に伝えられれば何よりも魅力的な仕事になるのではないか、またこのような本当に価値の高い仕事が大変な仕事として未来の子供たちに残されていくのは寂しい、価値ある農業を正しく魅力的な仕事として未来に残していきたい、そう強く思い、農家として独立することを選択したのです。
当時働いていた職場の方や親、兄弟にも反対される中、職場を退職し、知人から借りた1500坪の耕作放棄地と1本の鍬から、私の農家としてのチャレンジが始まりました。27歳の時でした。近くで有機農業を40年続けていた農家の先輩に教えてもらいながら、農家の出身でもなく、農業の学校を出たわけでもない私が農家として自立するためには普通にやっていたのではだめだ、人が1年で10回失敗するのなら、私は1年で100回失敗しよう、そう心に決め野菜作りに取り組みました。就農の2年目にはベジモ有機農業スクールを主催。私のような有機農業を学びたい人を集め、大学や資材会社の専門家を講師として招き、講座を開講しました。受講生からお金をもらいながら、私がもっとも学ぶことができ、地域の農家を育むこともできる。知識もお金も経験もない中で、身の丈を超えてスクールを主催するという発想と行動に移したことは、私自信を大きく成長させてくれた出来事だったと感じています。
育てた野菜は10品目の野菜セット、野菜ボックスにして知り合いに買ってもらったり、マルシェやイベント出店でお客様を増やしていきました。応援してくれる方が増え、約1年半で100人ほどの定期購入のお客様となり、農地を少しずつ広げていきました。6次産業化の認定をとり加工品販売に取り組んだり、就農3年目には通販サイトを制作しオープンしました。出来るだけ新鮮なまま食卓にお届けしたいこと、お客様と直接繋がりたいという思い、できればどんなところでどんな人が野菜を育てているか畑に見にきてほしい、という思いから、通販サイトの販売は隣接した県に限定して販売をしました。「身土不二」という言葉とも出会いました。その土地で暮らしている人にはその暮らしている土で育ったものを食べることが健康にも、環境にもとても大切であるという考えを販売にも取り入れ、販売地域を限定したことがお客様への差別化にもなり順調に顧客が増えていきました。
お客様は20代から40代で子どもが産まれたきっかけや、30代から60代で何か体の不調を感じた方が多かったのですが、特に顧客が増えるのは、3.11やコロナウィルスなど社会や環境からの警告があった時です。
私は新規就農してから農業を通じて、本当に多くのことを学ぶことができました。土壌のことや土壌微生物のこと、野菜の旬や野菜がどのようにして育つのかということだけでなく、農地や土壌が山や海、地域と繋がっていること、野菜自身が健康であるために大切なこと、虫や草との向き合い方、食と健康との相関や園芸療法、植物療法、グリーンリハのこと。そして、食と農業がいかに健康や環境にとって大切な役割を担っているか、ということ。本当に多くのことを学ぶことができました。
今年で就農15年目になりますが、10年ほど前からは障がいのある方や高齢者の方とともに野菜づくりを行う農福連携にも取り組んでいます。野菜を販売することで育てた野菜の価値に対する対価をいただくことはもちろん、私の就農の原点である、農業の楽しさ、気持ちよさ、学びをサービスとして地域に提供することで自然な農業に様々な対価の集まる仕組みをつくり、魅力的な仕事にしていくこと。今は大切な仲間(スタッフ)とともに日々取り組んでいます。
5年前からは大学で農業や農福連携についてお伝えする講座をご依頼いただくようにもなりました。自然栽培という分野に特化して栽培体系や健康価値の見える化に取り組みながら、同時に農福連携人材の育成にも取り組んでいます。
自然な農業が与えてくれる食を通した健康価値、土壌や圃場を通した環境価値はとても大きいです。アレルギーや病気の方が増えたら新しい薬や入院施設を増やす、精神疾患の障害のある方が増えたら施設を増やす、これもとても大切な取り組みではありますが、対処ではなく、予防の観点から地域の笑顔を育んでいきたい。自然な食や農を通じて日常の健康を育み、精神的な悩みを軽減できる環境をつくり、多様性を尊重し合える社会をつくり、介護にならないような予防の場を作る。自然な農業にはそんな社会を作る力と価値があると、私たちは信じています。
作る人にも食べる人にも、そして地球にもやさしい、価値ある農業や食に関わる仕事が、未来の子供達にとって魅力的な仕事として受け継がれていき、笑顔あふれる社会が実現できるように、これからもたくさんの失敗を繰り返しながら、1歩ずつ仲間とともに成長しながら楽しみながら、農と食の仕事に取り組んでいきたいと思っています。